はじめに

絶滅危惧種“トド”について、考えていただきたいと思います。
どうして“トド”が、存亡の危機に直面するようになったのか、そして現状は…。

今から1千万年以上前、日本列島も千島列島もまだ地球上に存在せず、人類も
出現していなかった遥か遠い昔。
クマ科から進化した“トド”は、エサを海中に求め、シャチ、アザラシ、オッ
トセイ、ラッコなど、仲間の海獣たち=海生哺乳類と豊かな海で平和に暮らし
ていました。

ではどうして今“トド”が、あと60年でこの世界から消えゆく種になってし
まったのでしょう。
私たちは“トド”の生息地で、その個体数を調査してきました。その結果、わ
かってきたとこがあります。

大きな原因の一つは、魚の乱獲でした。北海道でも1800年代からニシンを求
て入植者が急増。ニシンはわずか100年で獲り尽くされてしまいました。
1950年代からは、大型トロール船団によるマダラ、スケトウダラ漁が始まり
ました。

ニシン、マダラ、スケトウダラは“トド”にとっても大切な生きる糧。
“トド”が北海道に回遊してくる厳しい冬の海でさえ、刺し網や定置網で魚は獲
り続けられました。

そして悲劇の始まりです。必要以上の乱獲で魚資源が減っているにもかかわらず、
魚をエサとする“トド”を退治することで漁獲量を確保出来ると考えた人たちが
1950年半ばから北海道で一斉に大規模な《トド退治=有害獣駆除》を始めた
のです…。魚の乱獲を続けたまま…。
その結果、1958年以来駆除された“トド”の数はおよそ3万頭。
今も漁獲の増大は達成されないまま、“トド”の数が激減するという事態が続い
ています。

現在“トド”は、ロシアやアラスカというごく一部の国に限られ、10数年前か
ら絶滅危惧種として保護・回復計画が実施されていますが、北海道では昨年から
駆除枠までも年間116頭から120頭に増やされているのが現状です。

〜トドの百年物語〜

絶滅危惧種“トド”を取り巻く保全へ向けた動きは、
どうなっているのでしょう。

1992年、人類全体の生存基盤である生物多様性を保全し維持するために、
世界全体でこの問題に取り組むことが重要であるとして「生物多様性条約」
が作られました。

2005年7月、知床が世界自然遺産に登録された際、IUCN(国際自然
保護連合)の勧告により、“トド”の保全が実現するかに見えましたが、日
本政府が提出した海域管理計画は、その兆しすら見えないものでした。

2008年5月、条約に基づく生物多様性基本法が国会で成立。

来年2010年10月には、名古屋で国際生物多様性年としてCOP10
(生物の多様性に関する条約における締約国会議)の開催が予定されていま
す。日本は条約国となっていることから、ここにきて“トド”保全のための
追い風に繋がっていく可能性がでてきました。生物多様性条約が目指すこと
の一つが、『すべての種を絶滅させることなく、保全すること』なのです。

“トド”は北海道の海が豊かであることの象徴であり、かけがえのない宝物
と言えます。
私たちは、私たちを包んでいる海=これこそが環境であり、今、海がどのよ
うな状況になっているのかを自らの目で見て、感じ、大事なメッセージを学
ばなければなりません。
それが私たちの責任と言えるのではないでしょうか。

地球上に存在している種は、それぞれに連鎖し、つながり支え合って生態系
のバランスを保っています。何一つとして、絶滅してよいものではありませ
ん。絶滅の危機に追い込んだ原因をたどっていくと、魚を乱獲しているのは
誰?どうして?
飽食の時代、食べ物を無駄にしていないだろうか?
必要以上にほしがっていないだろうか…?
私たち一人ひとりの生活そのものが問われているように思います。
これを機会に、多くの人々が考え、気付き、何か一緒に行動できる日が来る
ことを心から願っています。
本当の豊かさとは何か…を知るために。

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